
ボローニャ展では特別展示「ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア(BCBF)の風景画と肖像画」も同時に開催しています。
今年、ブックフェアは60回目の開催となりました。これまでブックフェアでは、イラストレーションコンクールの入選者のうち1名を選び、翌年のブックフェア会場を装飾するためのイラストの制作を依頼してきました。(ビジュアル・アイデンティティ)今年は60回目を記念して、この10年間で入選した作家に「ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア」をテーマとしたイラストの制作を呼びかけました。ルールは一つ、イラストに用いる色はブックフェアのロゴマークに用いられている黒・オレンジ・赤・ピンクの4色のみ、ということだけです。この呼びかけに応えた作家の中から20名が選ばれました。
そのうちの一人は、今年のイラストレーションコンクールの入選者でもあるシン・アミです。今年の入選作は、理想の建物をテーマにその内部の様子と、そこで暮らす無数の人々を描き込んだ作品です。「ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア」をテーマとした作品も入選作と同様のスタイルで描かれました。絵本を読んだり、記念撮影をしたり、楽器を弾いたり…というように、世界中から訪れた人々の様子が緻密に描かれており、ブックフェアの賑やかで楽しげな雰囲気を伝えてくれます。
イラストレーションコンクールの入選者のうち35歳以下の若手作家1名に、スペインのSM出版から賞が授与されます。受賞者は、SM出版より絵本を出版する権利と賞金が与えられます。2022年はメキシコ出身のアンドレス・ロペスが受賞しました。今年のボローニャ展では、受賞記念に出版した絵本のイラストレーションを紹介しています。会場ではこの絵本と、作者のインタビューや制作プロセスを収めた映像もご覧いただけます。
本作は、空を飛ぶ鳥にインスピレーションを受けて制作されました。休む間もなく働きいている人々の頭上に、ある日、何千羽もの鳥たちが飛んできました。空を見上げることすら忘れてしまっていた人々は、大空を自由に羽ばたく鳥たちの姿を見て、時には休息して自分を見つめ直すことの大切さを思い出します。このストーリーには、日々多忙な毎日を送る現代の私たちに響くメッセージが込められています。
ここで紹介している場面は黙々と働く人々の頭上を鳥が悠々と飛んでいるところです。人が豆粒ほどの小ささで描かれていることで、鳥が地上からはるか上空を飛んでいることが想像出来ます。この場面のように画面全体を使った構図で、作者が空の広さや山の雄大さを巧みに表現している点も見どころの一つです。
ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェアでは、編集や装丁などが優れた本にボローニャ・ラガッツィ賞が授与されます。この賞には、いくつかの常設部門の賞の他、毎年特別にテーマを設けた賞が設定されます。今年は「写真」がテーマであり、受賞した4作品のうちの1点が本作でした。
本作は1910年にブラジルで勃発した「チバタの反乱」を題材としています。この反乱は、白人の海軍士官が黒人の水兵たちに、黒人差別として鞭打ちという厳しい体罰をしていたことへの抗議が発端でした。反乱を率いたのが、船員のジョアン・カンディドです。彼は反乱を起こした後に投獄された際、牢獄の中で刺繍作品を制作しました。近年、その作品が発見され、評価が高まっています。
本作の作者は、こうした史実にインスピレーションを受け、ジョアン・カンディドらの写真がプリントされた布に、刺繍で海にまつわるモチーフやジョアン・カンディドの作品に見られる鳥などを施しました。この作品は過去の辛い出来事をテーマとして扱っていますが、素朴な刺繍との組み合わせにより画面は重苦しいものにならず、どこか詩的な雰囲気が漂っています。
子どもの頃、美しい色の鳥の羽根や変わった手触りの小石などを大切に宝箱にしまっていた思い出は、誰にでもあるのではないでしょうか。本作は、そんな宝箱にまつわる祖父と孫娘のお話です。
宝箱の中身は二人だけの秘密です。一緒に宝物を探しに出かけるなど、二人はとても仲良しです。この場面は、祖父が宝箱の中から蛇の抜け殻を見つけ、驚いておどけた顔をしているところです。その表情を見て、孫娘はベッドにひっくり返りながら笑っています。孫娘の楽しげな声が聞こえてきそうな、ほほえましい一点です。作者は本作のように登場人物たちの表情や仕草を丁寧に描くことで、彼らの気持ちを上手に表現しています。
この作品は2022年に絵本として出版されており、展示室で二人のこの先のストーリーもご覧いただけます。今年のボローニャ展では、既に絵本として出版されている入選作が多く、展示室ではそれらの絵本を実際に手に取ってご覧いただけます。原画と絵本、それぞれの魅力をご堪能下さい。
イラストレーションコンクールには、作品の制作技法に関する応募規定はありません。ボローニャ展では、色鉛筆や絵具といったアナログ技法で描かれた作品や、最新のデジタルツールを用いた作品など、多様な表現の入選作をご覧いただけます。
白と黒で構成された本作は、全て切り絵の技法で制作されました。この作品の作者は、以前は切り絵とは全く異なる技法で絵を描いていましたが、細かく描きこまれた絵を制作したいと考え、かつて惹かれた安野光雅の切り絵作品を参考にして独学で切り絵を始めました。
切り絵はモチーフがバラバラになってしまわないよう、全てのパーツが繋がりあっていることが重要です。そのため、下絵の段階から緻密に計算をし、計画性を持って制作に取り組む必要があります。この作品は、画面を覆い尽くす葉脈や蔦が細部まで正確に切り抜かれ、職人技とも言える作者の技術力を感じることが出来ます。
本作は、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻を題材としています。作者は、爆撃された町の光景や、地下鉄の構内に避難する人々といったウクライナでの出来事を描き、『戦争日記』と題してインスタグラムで発信し続けています。本作はそのうちの5点の作品で構成されています。この場面は作者の友人の話を元に描かれました。避難の途中で保護したという犬を抱きしめ、瓦礫が山積みとなった町をじっと見つめる女性の表情は、胸に迫ります。
イラストレーションコンクールでは、絵本として2年以内に出版された作品、もしくは絵本になっていない未発表の作品を応募出来ます。そのため、本作のように今まさに起こりつつある出来事や世界情勢を題材に扱った作品が入選することがあります。ボローニャ展は、イラストレーションを通して我々の生きる世界の「今」を感じることが出来る場所でもあるのです。
イラストレーションコンクールには、作家の出身国の文化や生活が垣間見える作品も多く入選しています。本作もその一つ。
中国では、公園に朝集まって舞踏や太極拳を行う習慣があります。本作には、それぞれ自由なポーズで踊る人々がのびやかな筆致で描かれており、楽しい一日の始まりが伝わってきます。作者は公園をはじめ、市場、屋台など、中国でよく見かけるありふれた光景を題材に5点の作品を描きました。
コロナ禍以降、何気ない日常こそかけがえのないものであったことを世界中の人々が実感したことでしょう。今年のボローニャ展では、日々の暮らしを見つめ直した作品が多数入選しています。
この作品は、カタルーニャのルンババンドの曲を題材にして出版された絵本のイラストレーションです。
作者は子どもの頃から音楽を聴いたり歌ったりすることが大好きで、「音楽は人生において欠かせないもの」と言っています。制作する時は必ず音楽を流し、描いている絵のテーマに合わせて音楽のジャンルを変えているとのこと。そんな作者だからこそ、鮮やかな色使いと音楽を楽しむキャラクター達の姿で、ルンバの陽気な曲調を自在に表現できているのでしょう。
彼女はボローニャ展には2021年に続き、2回目の入選となりました。前回の入選作にもたくさんの動物たちが描かれていました。本作では、動物たちの造形が更に個性豊かになり、表現力にますます磨きがかかっていることを感じさせてくれます。
イラストレーションコンクールには、何度でも応募することが出来ます。そのため、この作者のように入選を重ねるイラストレーターもいます。お気に入りの作者との再会もボローニャ展の楽しみの一つです。
本作の作者は大の日本好き。子どもの頃から多くの日本のアニメ、漫画、映画、小説を愛読してきました。それらは、いまだに彼に多くのインスピレーションを与え続けているそうです。作者は、特に日本のアニメーターの仕事は、キャラクターの表情や動きの表現など多くを学んだと言います。
イラストレーションコンクールの審査の際、作品から物語性を感じることが出来るか、ということが基準の一つになります。本作は、物語を考えるのが大好きな猫のモーリスが主人公です。この場面は、赤ずきん、人魚、武士、幽霊など、様々な物語の登場人物になった自身の姿を空想しているところです。生き生きとした表情でポーズを決めるモーリスの姿に、物語の世界を夢見た幼い頃の記憶を思い出した方もいるのではないでしょうか?
ボローニャ展では、この作品のタイトルのようにまさに“物語のすごい力”にあふれた作品が数多く入選しています。
「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」では、イラストレーションコンクールの審査やブックフェアの会場の様子、入選者のインタビューの映像を毎年上映しています。
5名の審査員が選考の際に大切に考えている基準や作品に感じた魅力を語っており、各々の立場ならではの視点で作品が選ばれたことを実感していただけます。
会場を訪れていた入選者へのインタビューでは、作品の背景やそこに込めた想いなど、入選作をより楽しむためのエピソードを知ることができるでしょう。
動画には2017年に入選したオオノ・マユミさんによる会場案内レポートも収録されています。世界中から集まった出版社のブースや、編集者とイラストレーターが作品について語り合う様子などを取材しており、絵本を愛する人々で賑わう会場の熱気が伝わってきます。今後ブックフェアに行こうと考えている方にも参考になること間違いなしです。
動画はこちらからご覧いただけます。