美術作品を展示して展覧会を開催すること、作品を収集保存することは美術館の大きな役割です。そしてこの二つの役割は深く関係し合っています。本展は、展覧会とコレクションとの関わりという視点から美術館の歴史を振り返る「西宮市大谷記念美術館の―展覧会とコレクション―」シリーズの第3弾になります。第1弾の「ひもとく美術館ヒストリー」(2018年)では、1972年の開館当初から2000年代はじめ頃までの展覧会を取り上げ、近代絵画をコレクションの核とする当館が、西宮をはじめ阪神間で活躍した作家たちの展覧会を積極的に開催し、あらたな作品収集を行った経緯を紹介しました。第2弾「ひろがる美術館ヒストリー」(2020年)では、当館が1997年以降に開催した現代美術作家の個展に焦点をあて、新たなコレクション形成が行われた過程をみていただきました。
第3弾となる本展「つなげる美術館ヒストリー」では、展覧会や作品収蔵をきっかけに所蔵されることになった、作家や作品にまつわる資料を取り上げます。作品収蔵に伴って関連する資料もまた、美術館へと託されることがあります。美術作品を取り巻く様々な資料は、作家の制作活動を知る上で非常に重要な役割を果たします。資料を作品と共に調査、精査していくことで、新たな発見や知見を得る可能性が広がります。
本展では様々な資料を作品とともに展示し、より一層明らかに、そして豊かになる作家たちの創作世界を辿ります。
<出品作家>
津高和一(1911-1995)
代表作とともに、同人誌、詩集、行動美術協会、架空通信テント美術館展など、津高和一が生涯に関わった様々な活動を裏付ける印刷物資料を紹介します。
奥田善巳(1931-2011)
奥田善巳が1966年に個展で発表したインスタレーションの関連作品を2023年度新たに収蔵しました。現存作品の少ない1960年代の動向をその新収蔵作品と資料を中心に紹介します。
植松奎二(1947-)
重力のような不可視な「力」を主題とした立体作品を構想図と併せて展示します。その制作の過程を明らかにするとともに、親交のあった奥田善巳との間で交わされた作品や制作に関する資料を紹介します。
大石輝一(1894-1972)
大石輝一が画家を志し、研鑽を積み始めた頃に滞在した思い出深い土地である紀伊半島で制作した作品と、1943年に訪れたハルビンの風景を描いた作品を中心に、大石の風景画を紹介します。
伊藤慶之助(1897-1984)
洋画家として念願のフランス留学(1929-31)を果たした当時の作品を、現地で撮影した写真を交えて展示します。また終戦後に手がけた、新聞連載小説『青雲』の挿絵原画もあわせて紹介します。
今竹七郎(1905-2000)
今竹七郎は、デザインのための資料として様々な書籍やグッズを収集しました。その中の一つに絵葉書があります。絵葉書コレクションを端緒としながら、主に戦前から戦後にかけての今竹のデザイナーとしての仕事を振り返ります。
松井正(1906-1993)
1960年代以降、欧州、中南米、アフリカと積極的に海外へ赴きましたが、それらの旅で大きな刺激を受け、帰国後は現地の風物を主要な画題として二科展で発表しました。現地での素描を旅行手記とともに紹介します。
河野通紀(1918-2002)
日常的な事物の非現実的なあり方を追求して、マジック・リアリズムと評された作風を確立する以前のデッサンや素描を、代表作とともに紹介します。
大森啓助(1898-1987)
大森啓助は画家や文筆家として活躍する一方で、幼少期から親しんだ歌舞伎を題材にした作品を「ウラ芸」と称して晩年に個展で発表しました。自らの楽しみのために描き、亡くなるまで手元に置いていた作品を紹介します。
福田眉仙(1875-1963)
1909年から 12年にかけての中国の旅は、福田眉仙の画業に大きな影響を与えました。中国に題材を求めた作品と共に、『支那大観』『支那三十画巻』『聖戦戦跡画冊』といった関連書籍や写真を紹介します。
山下摩起(1890-1973)
油彩画の技法を日本画へ果敢に採り入れた山下摩起の遺した、1920年代から最晩年までの40冊のスケッチ帖の中から、本画や代表作と関連のある資料を中心に紹介します。
<新収蔵品(2023年度)展示>
大野麥風(1888-1976)
大野麥風は東京に生まれ関東大震災を機に西宮へ移り「魚の画家」として知られた日本画家です。当館で初めて収蔵することになる麥風の作品を初公開いたします。
- 主 催
- 公益財団法人 西宮市大谷記念美術館
- 後 援
- 西宮市、西宮市教育委員会