この作品は「本」というタイトルで、本を読む動物たちが描かれ、それぞれのイラストに「考えるために」「見るために」「いっしょに楽しむために」という説明文が添えられています。
「にげこむ場所として」と説明が付されたこのイラストには、子どものアライグマが本を読んでいる部屋の外で、両親が喧嘩している姿が描かれています。子どもが背にしている黒板にも、この子が描いたであろう怒り顔の彼らの似顔絵が見えます。家族の不仲に心を痛めるアライグマの子どもにとって、本の中の世界は辛い日常を忘れられる、大切な居場所なのです。短い説明文しか添えられていなくても、本という存在、本の役割、そして本と自分自身との関係について考えさせてくれます。
ストーリーを細かく説明していない作品も展示室には多く展示されていますが、それぞれの作品に込められたメッセージを読み解くのも、鑑賞の醍醐味と言えます。
本作は、南アフリカの民話「石のスープ」を題材としています。ヤマアラシが王様に食べてもらうスープを一人ぼっちで作っていると、それを聞きつけたジャングルに住む動物達が様々な食材を持ち寄ります。動物達の協力のおかげでたくさんのスープが出来上がり、最後はみんなで仲良く食べる、という物語です。
単純化された形で描かれたサルやシマウマ、ワニ、ウサギなどの動物達が、鬱蒼としたジャングルの風景の中に溶け込むように配置されることで、装飾的な効果が生まれています。それらは赤、青、黄、緑といった原色を用いて描かれており、作者の出身国である南アフリカなど、アフリカ諸国で見られる民族衣装の色使いや模様を想起させます。
韓国は今年も多くの入賞者を輩出しましたが、中でもこの作品は、サイケデリックな色使いとポップな絵柄がひときわ目を惹きます。コミカルなタッチで描かれた本作は、クスッと笑わされる一コマもあり、見る人を前向きで元気な気持ちにしてくれます。
主人公の男の子は、様々な経験を通して、大人であるお父さんやお母さんも、子どもの自分と同じように日々の生活の中で辛いことを我慢したり、お化けが怖かったりすることを知ります。キラキラとした光が弾ける空間のなか、主人公たちが逆境に負けずに力強く拳を上げたポーズで飛び出している様子を描いたイラストには「明日の幸せのために私たち強くなるよ。」という解説文が添えられており、不安な世の中で生きる多くの人への応援メッセージのように感じられます。
絵描きの犬が主人公のお話です。様々な人や動物、虫、宇宙人(?)が通り過ぎていくなか、絵描きの犬は熱心に風景を描き続けます。なかには日本でお馴染みのゴジラのような怪獣が東京を目指して歩いていく場面もあります。画面の隅々まで描き込まれた本作は、主人公だけでなく様々な登場人物の視点に立って楽しむことが出来る作品でもあります。
作者のゴーシャ・ヘルバは、ポーランドを拠点に様々なグラフィックデザインの分野で活躍しているイラストレーターです。求められる内容に応じてその作風を変化させる器用な作家ですが、子ども向けの絵本の仕事では、本作のように画面のどこを見ても楽しめるような作品を手掛けています。
リアルな鳥や動物たちの顔に、人間のような手足と背格好をした8頭身のその姿はシュールで、一度見たら忘れられない独特な世界観で描かれた作品です。
本作はお医者さんであるハトが勤務する病院が舞台となった物語です。ハト先生の元には人間によって傷つけられた動物たちが治療を求めて集まっています。ハト先生は人間たちが何故動物たちを傷つけるのか心を痛めています。日本では動物の悲しいニュースが後を絶ちませんが、それは他の国でも同様のようです。本作のようにシリアスな内容をはらんだ作品もイラストレーションコンクールでは度々入選しています。時に私たちが直面している問題や、社会情勢が様々な形で表現される絵本は、まさに世界を写す鏡のような存在であるとも言えるでしょう。
本作はいわゆる「動物図鑑」に登場するような珍しい動物ではなく、イヌやネコなど私たちにとって身近な動物たちが描かれています。イヌやネコたちが住んでいるのは、作者の出身国である台湾の台南地方や、日本の長崎や豊島など。実はこのイラストは作者が旅先で出会った動物たちが題材となっているのです。世界の道ばたで出会った100匹の動物たちを描くことを目標に、このシリーズは現在も続いているそうです。何気ない道ばたのでくつろぐ動物たちを描いた本作ですが、そんな日常風景の中にも素敵な一コマが潜んでいることを教えてくれる作品です。
作者のチェン・ウェイシュエンさんは台湾出身ですが、日本の美術大学で学んだ後、東京でイラストレーターとして活動をしています。
新型コロナウイルスの影響で、今年のイラストレーションコンクールは初のオンラインでの応募となりました。初めての試みであったため、ブックフェア事務局は通常とは異なる様々な対応に迫られましたが、ワンクリックで応募出来る気軽さも相まって、過去2番目に応募の多い年となりました。また、郵便事情があまり良くないため、普段は応募が少なかったアジアや南米の国からの応募も目立ちました。この作品の作者が住むインドネシアも例年では応募があまり多くない国の一つです。
この作品には、老人のワニ、子どものワニ、化粧をしているワニ、パンクな服装のワニなど様々なワニたちが暮らす世界が描かれています。見た目や好みも様々なワニたちが、お互いを認め合いながら暮らしていく様子を描いた本作は、今私たちが住む世界にも求められている姿勢が感じられます。このお話の背景には、作者が住むインドネシアという国が関係しているのかもしれません。大小様々な島からなるインドネシアは他民族国家であり、言語や宗教が異なる様々な人が暮らしています。作品に反映されたそれぞれの国の背景や文化を楽しむことが出来るのも、イタリア・ボローニャ国際絵本原画展の魅力の一つです。
イタリア・ボローニャ国際絵本原画展では毎年、作品審査の様子やブックフェア会場で入選作家の方のインタビューをビデオ編集して展覧会会場でご覧いただいていました。今年はブックフェアがオンラインで行われたため、現地での取材は出来ませんでしたが、日本人の入選者8名とはオンラインで、ボローニャ在住の入選者2名には直接インタビューをすることが出来ました。動画では、自身のバックグラウンドや作品に込めた想いなど、作品をより深く知ることが出来るエピソードを語っていただいています。オンラインでのインタビューは初の試みでしたが、各々の作家の背景にはアトリエが映り込んでおり、制作環境も垣間見える、これまでとは違った角度からも楽しめる動画となりました。
また、審査員にもインタビューを行い、審査の際に重視したことや入選作について感じたことなどを語っていただいています。
動画の公開は終了しました。(2022年1月末)